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    息子、交通事故に遭う。高校合格。15日目。 

     闘えば。道は拓かれる。


     抱き締めた。十年ぶりに頭を撫ぜた。その顔は〝本当に?〟と聞いてきていた。「本当だよっ!」。瞬間、彼の顔が紅潮した。手を伸ばし、バンザイのポーズ。

     声を聞けないのが残念ではあった。

     息子が第一志望の高校に合格した。1つ。たった1つだけだが肩の荷が下りた。ダメだった場合のシナリオを実行する覚悟はできていた。それが今の彼にはケッコウ、キツいプログラムだっただけに。この喜びは大きい。

     おめでとう。

     正月に県・一の宮の神社で買い求めた、片目だけ入っていた白い合格ダルマに目を入れさせた。彼の受験番号が掲載されたPDFをプリントアウトし、病室に飾った。そして。ナースステーションに報告。歓声が上がる。受験会場に付き添った看護士が叫ぶ。

     「すごいっ!やったねっ!おめでとうっ!」。

     昨晩22時。自分の入試の時よりもドキドキしながらHPを見た。そこに暗記した受験番号は〝あった〟。それでも信用できなかった。嫁に受験票を持って来させた。HPのPDFと見比べる。○○○○○。確かにその番号はあった。嫁は泣いていた。僕も少しだけだが涙が出た。これで、カラダを治すことだけに専念させられる。その高校に受かったことよりも、そのほうが嬉しかった。こんな状況だから。行ける学校があればどこでも良かったのだ、僕ら親としては。なのに、行ける学校が彼の望んだ高校であれば、これは文句のつけようがない。

     病室に戻り、座らせて話をした。
     「改めて。おめでとう。ただし、これはゴールではない。スタートだ。厳しい未来の幕開けだ。心して臨まないといけない。今から、言うことをシッカリと心に刻め。同じことは2度ということはない。こんな状況の中でよく頑張った。オマエの根性に敬服する。ただしっ! 勘違いをするな。この合格は、オマエの力だけで勝ち取ったものではない。3人の師の励まし、多数の友の応援。そして医者と看護士の努力。先方の高校の配慮。どれが欠けても、成し得なかったことだけは覚えておくように。人は1人では生きていけない。感謝の気持ちをシッカリと持て。これは人として一番大切なことだ。絶対に忘れないように。

     それが第1の父の願いだ。

     第2だ。この際だから、言っておく。今回の事故、オマエだけが被害者とは決して思うな。オマエを跳ねた人だって被害者だ。好き好んで、事故を起したわけじゃない。細心の注意を払わずに自転車に乗ったオマエも反省しなくてはならない。人を決して恨むな。恨むなら自分を恨め。そして、逆に自分の幸福を喜べ。術後、1カ月でサッカーのトレーニングは再開できる。こんなに嬉しいことはないだろう。生きてさえいれば、未来は切り開くことができる。〝あきらめる〟ことの愚かさを8本の歯と顎の骨折から学んだと思えば安いものだ。相手のことを思いやれる人間になれ。

     それが第2の父の願いだ。

     3番目。ずっと病室にいることを無駄にするな。いい機会だ。本を読もう。濫読でいい。推理小説、世界の名作、純文学、大衆小説、エロ小説、なんでもいい。読めっ! 読みまくれっ! この期間の読書が必ずオマエの高校生活、その先の人生の助けになる。本は心の〝クスリ〟でもある。オマエを成長させてくれることに疑う余地はない。

     第3の願い。わかったか?

     4番目。退院したら、徹底的に自分のカラダを追い込め。事故前以上のカラダを作れ。オマエが選び、進むことになった学校は決してサッカー強豪校ではない。だけれども。あきらめる必要はない。強い心が奇跡を起すことは、KSCで学び、今回また経験をしただろう? まずは自分に負けないこと。これが自分の使命だ! くらいの気持ちでサッカーに邁進してほしい。誰に対しても、技術で負けても、心の強さでは負けない君でいてほしい。そのためには自分を極限まで追い込み、元のカラダ以上にフィジカルを鍛えなければいけないことは自分でわかるだろう。そうしなければ、「ユース年代」という土俵にさえ上がれない現実をシッカリと見つめよう。

     これが第4の願いだ。以上。

     とにかく。おめでとう」。

     最後まで真剣に聞く目が印象的だった。大丈夫。こんな苦難でさえ、力にできるのだから。やろうと思えば、なんでもできる。息子よ。それがオマエの最大の武器だということを決して忘れるな。3年後。どれだけ全国に近づけるか? を楽しみにしている。一緒に合格したKSCの盟友・YNクンとともに、闘ってくれ。一番のライバルは今まで味方だったKSCの面々だ。厄介だぞ。オマエ同様、心がすごく強い。その戦いは楽しみだ。

     未来の光が端っこだけだが見えた。
     その輝きに向って歩き出そう。 

     喜びに満ちた15日目が終った。



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