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    息子、交通事故に遭う。受験当日。13日目。 

     寒い日だった。


     早めに嫁と病院に向かった。今日は、緊張の一日だ。僕らの思いは、ただ1つ。無事に。ひたすら無事に帰ってくること。そこは、息子の思いと多少、ズレる。どんなに鬼のような親だと思われても仕方がないことを僕らはするのかもしれない。ただ、それは愛する息子が望んだことだ。合格するかどうか? はさておいて。望んだことを陰からサポートするのも親の役目だ。あとは彼の力による。

     息子も僕も嫁も。
     〝今〟しなければならないことを全力でやるしかない。

     外出の準備が始まる。点滴を抜く。熱を計る。丁寧に気管の痰を吸引器で抜く。そして、カヌーレ(首の呼吸器)を汚れていないものに交換する。着替える。息子の顔に笑みが浮かぶ。サラサラと筆談用ノートに文字が走る。

     「楽しい。試合前みたいだ」。

     看護士が迎えに来た。病室を出る。ナースステーションから声が飛ぶ。何人もが声を掛けてくれる。「がんばってっ!」「がんばって!」「がんばれ!」「がんばれ!」「みんなで応援しているよ~っ!」。深々と頭を下げ、エレベーターに向かう。1階に付き、駐車場で待つ救急車に乗り込む。3人のドクターが見送りに来ている。付いていく看護士に何度も何度も安全に関する打ち合わせ注意を繰り返す。たぶん、昨日も同じことをしたに違いない。最後にドクターは息子に声を掛けた。

     「がんばれっ!」。

     動き出す救急車。僕も同乗した。国道をK市ICまで。そこから高速道路。片道の所要時間は1時間30分。それが、この旅の行程だ。嫁は…。我が県・一の宮の神社にお参りに行くという。「普段、神は信じないけど。今日は一の宮さんに祈って待っているから」。サイレンを鳴らして救急車は走りだした。

     予定の1時間30分後。無事に目的の高校に到着した。吸引器で痰を抜き、面接会場へ向う。万が一のために看護士は付いていく。僕は救急車で待つ。闘いの場へ向かう息子に一言だけ掛けた。

     「GOOD LUCKっ! 楽しんで来いっ!」。

     40分後。息子は帰ってきた。痰を再度抜き、帰路に就く。どうだったか? は一切聞かない。聞いて何かが変わるわけではない。そしてまた、1時間30分が経過。無事に病院に到着した。ナースステーションが沸き返る。「お帰り~」「お帰りなさ~い」「お帰りっ!」「お帰り。よかったね」。その声にに対し、「ありがとうございました」。親子3人で深々と長い時間、皆さんに頭を下げ続けた。病室に戻り、嫁と話す。「これで後悔だけはしなくて済むね」「そうだな。とにかく関わってくれた人、全員に感謝だ。『ありがとうございました』だ」。

     感謝。とにかく感謝の気持ちしかない13日目だった。



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