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    ランデヴー。 

     夜は冷える。


     大と小。2つの影は走る。

     中ではアップが始まった。色々なステップを踏み、これからの激しいプレーに備える。寒空の下、プレーヤーの熱気が蒸気に変わり、ナイター照明の中に浮かび上がる。

     大と小は走る。その熱気の周りを回る衛星のように小さな白い息を吐きながら走る。

     ゴール前では1対1が始まった。激しいコンタクトが繰り広げられ、シュートが飛ぶ。キーパーも必死。プレーヤーも必死。これがサッカーの原点だ!というプレーのオンパレード。ナイター照明に浮かび上がる蒸気がいよいよモヤに見えてくる。

     大と小は走る。スピードは速くはない。ゆっくり1歩1歩を確かめながら、走る。

     ちょっと離れた場所では体力測定も行われている。50m走。全力疾走が行われている。速い。これが小学生のスピードか? というようなプレーヤーもいる。タイムを聞いての一喜一憂の声が上がる。

     大と小は走る。何か2人で会話はしている風ではある。でも、走ることはやめない。走る。

     1対1組と体力測定組が入れ替わる。ますますカクテル光線に浮かび上がる蒸気は、その量を増す。ひたすら、自分の上手さを見せ付けたい!というプレーのオンパレードは「サッカー 虎の穴」の雰囲気さえ醸し出す。

     大と小は、まだ走る。小のほうが多少、元気だ。大を気遣い、スピードを合わせている。

     ピッチ内の練習が休止した。皆、水分補給に戻ってくる。大と小も止まって水を飲む。大と小は同じケガをしている。小が先にケガをした。症状は深刻だった。手術が必要だった。無事、手術を終え、今は懸命のリハビリ中だ。大は最近ケガをした。小よりは軽かった。ただ、まだ完全に痛みは取れない。こちらは治療とリハビリの同時並行だ。

     大と小は、また走り始めた。走る。ゴールの裏を通る時は遠慮がちだ。

     ミニゲームが6カ所で始まった。6色のビブスで振り分けられたプレーヤーは必死にボールを追う。トリッキーな動き、パワフルな動き、華麗なドリブル、正確なスルーパス。それぞれがそれぞれの自慢のプレーを「これでもか!」と見せつける。そのド迫力は見るものの目を奪う。モヤがまたカクテル光線に浮かび始める。

     大と小は走る。2人ともボールを取り合うことは、まだできない。でも、それができるようになった時に、すぐ復帰できるように走ることはできる。

     ミニゲームはローテーションをしながら繰り返される。グルグルと選手は入れ替わり立ち替わりコートを巡る。周りでコーチ陣がボードを持ちながら、プレーのチェックをしている。でも、選手には関係ない。今、そこにあるボールを追うだけだ。それがサッカーだから。

     大と小は走る。2人にとって、今は走ることがサッカーだ。ちょっとツマラナイ・サッカーではあるけれど。信じて走るしかない。

     ミニゲームはまだ続く。選手の熱気のモヤは最高潮の濃さになる。白い雲のようにグラウンドに立ち込めるが、それは不快な雲ではない。神聖な光を湛えた雲。ゲームはどこも白熱している。まるで、天上の小さな鬼神たちが遊んでいるかのような光景。みな、サッカー自体を楽しんでいる。

     大が止まる。小はスピードを上げて、一人で走る。グングン、スピードは上がる。1周して大のところに止まる。

     ミニゲームも終わった。みな、それぞれが整理体操に入る。大と小も、その集団の中に入った。体操が終わると、集合の声がかかる。コーチの話が始まる。大と小はようやく集団の中に溶け込み、見分けがつかなくなった。

     がんばれ。大と小。今日まで、あまりお互いを知らない2人だったけど。お互いの家も歩いて3分のところと知ったのも今日だけど。君たちは仲間だ。お互い今日の2時間頑張った仲間だ。2人で頑張れば真ん中のミニゲームに入れる日がやってくる。今日の二人旅は必ず君たちの力になる。

     まだまだ続く二人旅。でも、1人じゃない。
     くじけず。がんばれ。大と小。




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